2019年3月12日火曜日

【たのしい裁判入門】 第1話「山田太郎を追え~見えないあいつをカーチェイス~」⑥



(このシリーズは、事実を元ネタにしたフィクションです。ちょっくら、いろいろいじくってありますのでご了承ください)


ついに夜逃げ人間ギャートルズ「山田太郎」の住所をつきとめたリストラリーマン吉家は、そのまま市役所から、姫路市内へと乗り込んでゆくのであった!

というところまでが前回のお話。市役所の時点でとりあえず5時を回っていたので、会社にここまでの経緯を報告して、「とりあえず、本人を訪ねてみます!」ということでそのまま残業探偵へと突入したわけで。

姫路市内の住所はわかっても、それがどのへんなのか全く土地勘もなかった吉家は、とにかく市役所じゅうを探し回って、ゼンリンの住宅地図が置いてあるコーナーをみつけて、そこでページをめくります。

「ゲ!ここって・・・」

そう、そこは姫路の飲み屋街のど真ん中。なんでこんなとこに住んでいるんだ!アブナイ気配がゾクゾクする!という感じ・・・。



この胸のときめきは、絶対に恋じゃない!と思いつつ出発です。



で、その地域へ到着。

車をゆーっくりと進ませて、「さあ、いまから店が開きまっせ」という感じで、おしぼり配布業者とか、酒屋の車とかがうろうろしている繁華街の裏手を走ります。

と、それっぽい建物を発見。「〇〇ビル、ここかあ・・」と車を止めて、さっそくリサーチ。

どうやらそこは、マンスリーとかウイークリーで貸している賃貸のマンションで、おそらくワンルームがひしめいているようなところです。繁華街のど真ん中、とはいえ、一筋入っていますので、飲み屋の筋からはちょっとだけ離れているような立地で、意外に小奇麗なマンションでした。

玄関はオートロックで各戸へのアクセスは、玄関横のインターホンであけてもらわないとダメなタイプです。もちろん、われわれのような部外者は、玄関の扉が開きません。

「・・・よし!」
と意を決して住民票に書いてあった部屋番号のナンバーを押します。


「なんじゃい!わーれー!」


と見も知りもしないおっさん=山田氏に凄まれるかも!と思いつつ、ハタと気がつくヨシイエ。

「あ、そうか。今回は『金払え!』じゃなくて、裁判取り下げるんだから『金、払わなくていいですよ』って言えばいいんだから、怖がる必要ないじゃん!!!」

・・・だって、山田氏にとっては良い話じゃないか!ボクは幸せを届けに来てるだけなんだ!と自分に言い聞かせると、ちょっとだけ楽になります。

ピーンポーン!

・・・・

ピーンポーン!

・・・・

ピポピポーン!

・・・・いねえ!ラッキー!!!!!!

念のため、あと2回くらいピンポンしても反応なしです。

「留守なのかな」

・・・まあ、まっとうな判断ですね。だったら帰ってくるまで待たせてもらう、というのが筋ですが、いやいや、どうもそんな感じじゃないのでした。

ふと横を見ると、郵便受けの列が。そこで該当の部屋の状差しを見ると、案の条あふれています。

「ちょっとごめんしてね!」

と手を触れないように、はみ出している手紙類などの束から、宛名を確認すると、「山田太郎」の名があるじゃあーりませんか!!!

やっぱりヤツはここにいたのです。


しかし、それは「いる」ではなくて「いた」感じ。


すでに請求書、督促状などの束が無造作に突っ込まれているところからみて、どうやら山田氏はずいぶんまえにここから立ち去ったのだと思われます。

住民票を移していないことから考えて、こんどこそ本当に行方をくらませたのかもしれません。当然、売掛や借金が残っているのはうちだけじゃないでしょうから、追われて逃げてしまったのでしょう。

というわけで、ひ弱な青年ヨシイエは、結局怖いおっさんに出会うことなく、探偵ごっこを終了することになったのです。

厳密には、あと数回別の機会に訪問し、状況がまったく同じだったので、うちの会社としては手立てを尽くした、ということで、「これこれこういう状況でした」という報告書をし立てて、裁判所に提出することになりました。

「上申書(お上に申し上げます!)」という書類になるのですが、つまりは、山田太郎を出来る限りの住所探しをしたけど、がんばったけどもう無理なので、住所を確定して手続きをするのは厳しいです。ごめんなさい。ということをお願いするわけです。

すると、裁判所は

「よし、そのほうの願い、しかと聞いた。よって、お上の沙汰を申し渡す。『公示送達』という手続きにはいる」

はは~っっ。ありがたきしあわせ!

ということで、姿なき山田太郎が所在不明でも、裁判が進められる「裏ワザ」に突入したのであります!


(次回、公示送達ってなんだ?!あなたもやられる「公示送達」の恐ろしさ!の巻、こうご期待!!!)

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