2019年11月6日水曜日

■【資本主義をハックする23】 社長はなぜ偉いのか  ~これからは”ヒラ社員”が偉くなる!?~



  吉家さんはその昔ガッコウという場所で仕事をしていました。そう、いわゆる公務員です。公務員の中でもガッコウという場所は


 校長・教頭・教諭


という3つしか階級がなく、そしてその階級差をほとんど感じないくらい


 校長よりも、そのガッコウに長年居座るベテラン教諭のほうが偉そう


という摩訶不思議な世界で生きていました。


 なぜなら校長は3年もすれば転勤してしまい、ベテラン教諭は10年から20年ぐらいそこにいることが多かったからです。



 そうでなくても教諭同士の格付けはいちおう平等でしたので、 勤続20年のベテラン担任も初任者の担任も、制度的には同格で仕事ができる摩訶不思議な世界でした。





 はてさて、それから数年が過ぎ、今度は民間企業で働き始めて、面白いことに気づきました。


 うちの会社は本社の社長がほとんど現場にやってこないというほったらかし自由闊達な職場なのですが、あるときバッタリ社長に遭遇して


「お疲れ様です!」


とにこやかに挨拶をして、ふと思ったわけです。


 はて、どうして社長たる存在は偉いのだろうか


と。




 これまでガッコウに勤めていると、偉いはずの校長が組合に入っている教員にコテンパンにやり込められたりしている姿をみてきたわけで、まあ、ふつうの企業でも組合がうるさい会社だとそういう場面に出くわすこともあるでしょう。


 うちの父親は国鉄職員で、○労の書記をしていたこともあるので



労使対等!!!



なんてことをよく言ってました。そうです。社長と社員は対等なのです。きっと。






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 ここで本音と建前の話をします。日本人の好きなヤツですね。ホンネとタテマエ。



 タテマエ上は、今話したとおり「労使対等」ですから社長と従業員は対等です。


 社長が偉いわけではなく、


それぞれ「社長という役割」「社員という役割」「部長という役割」を担っているだけで、その職責(責任度合い)に応じて給料が異なる


、という建前になっています。



 ところが、日本人のホンネというか実態は「身分社会で儒教社会」ですから、


 立場の上のものが偉くて、下のものが下僕


ということがよく起きます。






 純粋な意味での儒教社会なんて実は日本と韓国くらいしか残っていないかもしれません。




■ ヨーロッパは「階級社会」です。上流階級と労働者階級が異なり、住む世界が違うという感じです。それぞれ、出身血統によって世界が異なります。



■ アメリカは「階層社会」です。お金持ちと貧乏人がいます。 出身階級に関わらずお金で決まります。


■ インドは「カースト社会」です。家柄・血筋で決まります。


■ ユダヤ・イスラム社会は、神の前に平等です。(男女は平等ではないけど)






 それらに対して、日本と韓国の儒教社会は


「年寄り、先輩が偉い」


「長男や長女が偉い」

「立場が上のものが偉い」

「階層が上のものが偉い」

「下のものは下僕」


という形です。


ヨーロッパやアメリカと比較すると


◆ 出身階級で偉さが決まるわけではない



◆ お金の所有高で、ある程度の階層は区分けされる



◆ 所有高よりも立場が優先される



という特徴もあります。このあたりは日本式独特です。



例) 資産高1億円のニートのドラ息子(父は他界)よりも、正社員が偉い


   父親が日雇いでも大企業に勤めている息子のほうが、官僚のニートの息子のよりも偉い


   ベンチャー企業の社長のほうが、大企業の下っ端より偉い


   山田畳店よりも、吉田工務店のほうが偉い 野原設計事務所のほうがさらに偉い


   もと華族の家柄とか、別にしらんがなそんなん。






 例をたくさんつきつめると



◆ 現在の立場・役職という階層

◆ つぎに金銭の所有高



を中心とした身分社会が日本の特徴だとわかります。



 このうち立場や役職は、組織内部では絶大な力を発揮しますので、社長と社員とでは大きな権力の差が生まれます。



 ところが「組織外部」になると話が変わります。その場合はそのより外側の所属する外枠の枠組みで権力が変わるので、


「ゼネコンの下っ端社員が、下請けの吉田工務店の社長をアゴで使う」


なんてことが起きます。 この場合は、元請下請けの枠組みが組織を形成するわけです。





 日本社会では、この「組織・枠組み内部」であるかどうかが重要なので、



 「前田花屋の社長」と「吉田工務店の営業マン高橋さん」と「スーパーまつやまのレジ係峰山さん」


がいたとして、レジ打ちの峰山さんの子供が6年生、高橋さんの娘が3年生、前田家の坊主が新一年生だったら


「PTAでは峰山さんが偉そうに廃品回収の段取りを仕切る」


ということが起きます。



 あるいはタワマンで何階を買ったかという下克上が起きたりするのも日本らしいですね。






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”ある組織において、上下の立場の身分が偉ぶる者と下僕を生じさせる”


という現象は、実は中国の儒教の影響で、それも徳川幕府と朝鮮王朝によって導入された朱子学の成果で、人工的なものです。


 なので、日本と朝鮮にはこの朱子学的身分制度が多々残っています。



 ヨーロッパでは、その時の立場ではなく出身家の血統が階級を形成しますし、アメリカではお金持ちがとりあえず勝ちです。

 儒学が生まれたはずの中国は、すでに共産主義で塗り替えられています。

 そういう意味で、組織における身分制度は日本と韓国だけに残る特殊なものかもしれません。





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 話が長くなりましたが、こうした制度は人工的に生まれたものなので、制度が疲弊すると壊れてしまう場合があります。



 たとえば、鎌倉幕府は「幕府が領地を御家人に与える」「そのご恩を持って幕府に奉公する」という




ギブ安堵テイク (所領安堵にかけてみた)




だったので、元寇の折に「領地が増えないのに一生懸命モンゴルと戦ったのは意味ないねん!」ということで幕府が倒れる原因になりました。




 近年、ボクシングの山根会長やテコンドーの金原会長が糾弾されたように、あるいは吉本興業や関西電力のトップが叩かれたように、


「組織の統制が取れないとすぐ下克上が起きる」


のも、これらの身分制度が「内部反乱」を爆弾のように抱えたシステムであることを示します。



 厳密には、組織は上から下へトリクルダウンとしてエサを下ろし続けないと、特に中間段階にいるものが美味しくないので、組織を崩壊に向かわせることになるのですが、それはまた別のお話。



 さて、こうしたわけで、名だたる大企業が45歳以上の社員をリストラしはじめたように、組織における身分制度は内部にいるものにとって美味しくないので、そろそろ崩壊の兆しが見えています。



 これからどんどん儒教的な身分システムは、機能しない方向へ向かうと予想されます。



 そうなると「社長は偉くない」ということが現実に起きてきます。


 
 ◆  資本家は金を出して利益を得る役回り

 ◆  社長は事業全体の枠組みを統括する役回り

 ◆  上司はセクションにおける分限責任を負う役回り

 ◆  社員は実行するだけの役回り


ということがだんだん明らかになってくると、 社員は好きなように職場を選ぶということが起きてきます。




 つまり、「自分の労働力と、職場というシステムやツールを使って利益を得る場所」が就職先になるわけですから、


「いいツールとシステムがないのであれば、おさらばである」


ということが社員のベーシックな意識として持ち上がってくるということです。能力の高い社員ほどそう考えますから、


「身分的に、おまえら社員は社長や上司の言う事を聞けばいいんだ」


という社風の会社は、


「自分でモノを考えられない、どんづまりの行くアテのない社員の吹き溜まり」


になってゆくことでしょう。そういう社員は、ツールとシステムについて考える能力がありませんから、黙ってそのままそこにいます。





 というわけで、まともな会社ではこれからどんどん「偉い社員」が現れる時代がやってきます。



 まるで、中世の封建社会から戦国時代へと変化したように、会社組織も戦国化がはじまるのです。







2019年11月5日火曜日

■【資本主義をハックする22】 若者は3年で会社を辞めなさい!



 近年(というか昔からですが)、


 「若者が三年ですぐ会社を辞めてしまう!」


 ということが問題になっています。



 しかし、個人的にはヨシイエは若者がすぐ会社を辞めてしまうことは、意外と悪くないのではないか、と常々考えています。


 いやむしろ、3年でも2年でも、速攻で仕事を辞めてくれるということは、実は労働者すべてにとってWIN-WINなのではないか?と推奨したいくらいです。





 そう!その背景には、実は「若者が3年で辞めると困るのは、経営者だけだ」という恐ろしい真実が隠されているからです。



 おもしろことに、ふだん後輩が3年で辞めてしまって、文句を言っている先輩社員にとって、困ることは一切なく、むしろ本当は彼らにとっても利益になる可能性がある、と言えば、驚くことでしょう。



 今日はそんな話をしてみましょう。





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 「若者が3年で会社を辞める」という言説は、大抵の場合


 「だから最近の若者は忍耐力がないんだ」とか

 「だから使える部下が育たないんだ」とか


そういう語句に繋がってゆくものだと思います。 これは、逆の見方をすれば、すごく単純な話で、



”これまでの先輩社員たる人たちが、ただ忍耐を強いられ、やりたくないことをさせられてきた”


ということの裏返しにすぎません。なので、仕事をさっさとほっぽり出して転職してしまう若者を見て、


「おまえらずっこいわ!(ずるいわ)」


と感じる気持ちをそう言い表しているだけ、ということになるでしょう。


「・・・わしなんかこんなに我慢してきたのに」


と。



 この見方は、別に先輩社員の人格をディスっているわけではなく、これまでの組織労働のあり方が、これまたただ単純に


「ピラミッド型になっていて、若手から順に労働力を搾取して集約し、上位にいくほど労働力が楽になってゆく構造」


をしていたことを示しています。ですから、先輩社員が若手であったときは、本来の給与よりも搾取されている度合いが強かったわけなので、 たしかに我慢を強いられていたのですね。




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 それにもう一つ、日本は封建主義的社会、組織を作っていますので、(この点については別に機会をもうけて説明しますが)基本的には



「下の者は、上の者の言う事を聞け!」


という組織体系になっていますので、


「言う事をほぼ無条件に聞かなくてはならない若者・部下・若手社員がたくさんいればいるほど、上司や経営者は高い利益を得ることができる」


という構造になっています。



 なので、若手は「いつか上司になれば搾取ができる」ということに気づいており、偉くなれば自分もそっちの立場へいけるのだということをインセンティブにして、長く働く構造が出来ていたのです。





 これらを簡単にまとめると



「長く働くということは、長い我慢を強いられるが、その後一定年月がくれば、その苦労が報われ、利益が享受できるしくみである」



というビジネスモデルであることがわかります。






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 ところが、これは、その企業なり組織が少なくとも「長い間」存続し、「右肩上がり」の業績を上げることができる場合にのみ成立する話で、


「短期的にビジネスが動く」

とか

「右肩下がりもしくは、平衡状態」


の場合には成立しないビジネスモデルです。


 たとえば、タピオカ屋に入社して、若手社員から部長に上り詰めるまで、タピオカブームが続くとは思えないので、上記のような組織は作れません。

 さっと集ってタピオカ煮て、さっと別れてゆくに限ります。


 あるいは、毎年新入社員の数が減少してゆくのに、「いつか部長になれる」わけがないですよね。



 従って、ほとんどの企業において「これまでは、そうだった」かもしれませんが、「これからは若手が長く勤めるビジネスモデルは成立しない」ことがわかると思います。





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 では、どのみち「若者が長く働いても、意味がない」ビジネスモデルで企業が動いているのであれば、当然のことながら



■ 若者は3年で会社を辞めてもいい、というか辞めたほうが「搾取」されない



ことがわかると思います。


 それよりむしろ、若者が3年で会社を辞めることがすべての会社で行われれば、



■ 給料と比較して、見合わない労働をさせることが減少する



ことが予想されます。なぜなら「割りに合わない」仕事であればすぐ若者が辞めるからです。



 そうなると、若者に対しては、「割りにあうおいしい仕事量」と「給与」はバランスが取れてゆくことになります。

 まさにワーク給与バランスです。




 もちろん、このままでは、長く働いた先輩社員たちから見れば


「あいつらずっこいわ!」


になってしまうと思うかもしれません。しかし、実際には


「若者が早期に辞めることに対して、長期で働いてくれる人材については慰留のインセンティブが働く」


ことも当然です。そうしないと今度は


「おっさんもすぐに会社を辞めてしまう」


ことが全国的に生じるからです。



 こうして、長期労働者に対しての一定の優遇と、「それなら自分も長く働いてみよう」という若者の意識のバランスが取れたところで、給与と労働内容は落ち着いてゆくのが自然の理です。



 そのためには、一刻も早く、若者が3年で仕事を辞めてくれないと困るわけですね。





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 ちなみに、私は従業員でもありながら取締役という微妙な立場ですので、経営者の考えもわかるし労働者の考えもわかります。


 ひとつ絶妙な例を挙げてみましょう。



 うちの会社では、「トラックで建築材料を運ぶ」という仕事があります。今現在は30代から40代の社員が、なんとか小型クレーン(ユニック)車を使いながら荷物を運んでいます。



 ところが、今の社員がもし辞めたら、次の若手は困ったことに


「中型免許を持っていない」


ので、まず応募してこようと思いません。


 そして、仮に中型免許の取得を補助しようとしても、そもそもそいつが受かるまで、カネを出し続けるのか?などのややこしい話が持ち上がるのが目に見えています。



 そうなると、答えは簡単。


 30代から40代の現行社員を、大事に扱う


というのが最も効率的で効果が高いわけです。(給与や処遇面で)





 こういう例からもわかるとおり、 若者が3年で会社を辞めてくれれば、短期的には現行社員が利益を得るのです。


 そして長期的には若手社員ももちろん利益をえます。


 WIN-WINですね。


(経営者は困るけどね)