2014年12月12日金曜日

【高校生のための”人生”の教科書25】 ブラック企業とは何か 

 この章では、「仕事=エサをゲットすること」という図式でものごとを説明してきました。というわけで、三回目の今回は「ブラック企業」についてこの観点で読み解いてみたいと思います。


 ブラック企業とは何なのか。


 一般的には、仕事がきついとか給料が少ないとか、そういうイメージがあると思いますが、ブラック企業の本質は、簡単です。


 エサをゲットすることに対して、かかるコストの割りに極端にリターンが少ない


ということに他なりません。


 もちろん、この章の最初からお話しているように、エサをゲットすることには「狩猟採集」の側面もありますから、「探したけれどエサが見つからない」「手に入れたエサが極端に少ない」ということは当初から想定の範囲内です。

 漁に出ても魚が獲れないとか、今年はキノコがあまり山で見つからないなんてことは、「狩猟採集」の側面ではよくあることです。

 また、農業においても「今年は不作」とか「米が冷害で育たない」なんてことは、現代においても起こりえることです。


 つまり、ただ単純な意味での「コスト対リターン」を比較して、それがマイナスであれば「ブラック企業である」と定義するのは、すこし気が早いような気もしてくるはずです。




 このエサについての「不確実性」や「非計画性」がはじめから存在するので、ブラック企業問題は一見わかりにくくなっているのですが、ここでもうひとつの「ブラック企業」の定義を示してみましょう。


「エサをゲットすることに対して、かかるコストの割りに極端にリターンが少ない」ことが、完全にシステムに組み込まれている


これが、より正確なブラック企業の実態だと言えるかもしれません。


 つまり、本来であれば、労働者がエサをゲットする労力に対して、一定のリターンがあるわけですが、それを企業や会社と最終的に分配するときに労働者が確実に損をするようにシステムが作られているのがブラック企業だと言えます。


(間違ってはいけませんが、労働者と企業の取り分比率の問題ではありません。労働者の取り分よりも、企業の取り分が多いことは問題ではありません。労働者の労働コストよりも、与えられる取り分が少ない時にブラック化するのです)


 ふつうの企業は、労働者がエサをゲットする労力以上の給与(エサ)が支払われています。そのため国民総生産GDPが増えるわけです。経済が「成長する」なんて言われるわけですね。


 ですが、ブラック企業では、どうもよく考えると労力よりもエサのほうが少ない。でも、実際獲れているエサの総量は多そうだ。あれ?残りの大半は企業が持っていってるのではないか?・・・なんてことが起きているわけです。


 
 こうしたことをまとめてみると、次のような考え方ができると思います。


① 労働時間が長いとか、労働内容がキツイということそのものはブラックではありません。長時間労働であっても、仕事がたいへんでもそれが法に則っており、給料がたくさん払われているのであれば、ブラックとは言えないことになります。


② 不確実性を持つ仕事(猟師であるとか、相場に絡む仕事や、歩合制で契約するものなど)については、たとえ一銭も稼げない月があっても、それだけでブラックだとは決められません。そうした仕事は入手できた業務内容や数に反比例して対価も高くなることが多いからです。


③ 雇用者の取り分と被雇用者の取り分を比較したときに、雇用者の取り分が大きいからといってブラックだと断定することはできません。雇用者には被雇用者からは見えないコストもたくさんかかっていますので、被雇用者への分配比率だけで判断することは問題があるからです。


④ 正当に報酬を計算したときに、本来被雇用者が得られるべき収入に対して、実際の収入が低い場合。その得られるべき収入から何がしかの「天引き」や「自爆購入」などのマイナスが生じることがシステムに組み込まれている場合、それはブラックの可能性があります。




 最後に少しだけ、一般的に公正だと言われている会社の経理において、1人の人材を雇う場合の経費を紹介しておきましょう。


 Aさんを年収400万円で正社員で雇う場合、会社にのしかかる経費は約倍の800万円近くかかっています。

 そこには、たとえば厚生年金の掛け金を半分会社で面倒を見たり、労働保険料をかけていたり、退職金の積み立てをしていたり、あるいは仕事上必要な研修を行ったりしているからです。それらのお金は基本的には会社が経費として負担しています。

 細かいことを言えば、他にもたくさんAさんのためにお金がかかっている内訳が存在しています。


 そうした全体の構造の中でAさんの給与が決まってくるわけですが、仮に、Aさんに支払われる給与の中から「厚生年金の会社負担分も天引きします」とか「労働保険などの保険料もぜんぶあなたから貰います」などの仕組みで運営されている会社があるとすれば、それは確実にブラック企業だと断定できることでしょう。

 結果的に本来400万円もらえるはずのAさんは、そこからいろんなものを不法に差し引かれて200万円しか残らないかもしれないわけです。そうした実態が、不当に安い給料として表面に現れてくるという仕組みです。


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