2018年11月29日木曜日

【資本主義をハックする 18】 技術は「目で盗め」が正しいのか、「丁寧に教える」のが正しいのか



 とある職人さんのお話で、「最初から最後まで丁寧に教えたほうが、結果として有能な職人になる」ことがわかり



「仕事は目で盗め」



といった、これまでの職人の常識は、一体なんだったんだ?ということが話題になっているようです。




 

布団作りの職人が最初から技術を丁寧に教えた結果

https://togetter.com/li/1288622




 この話、いろいろな意見があるようですが、結論から言えば



「最初から最後まで教えたほうが、技術は上がる」



だろうことは予想がつくし、正しいことです。





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 しかし、 どうして職人の世界では、「仕事は目で盗め」という話が語り継がれてきたのでしょうか。




 これは、みなさんの意見にも多少出てきますが、



「つまらない仕事から順にやらされる人材が存在することで職能と報酬のバランスが取れる」


ということのようです。



 吉家さんも、ふだんは建築系の世界に関わる会社に勤めているのでわかるのですが、職人さんというのは一人前になると、


「その時点で給料は頭打ちになり、かつ同じ仕事をしているものは時にはライバルになる」


という世界です。


 たとえば、大工さんの日当が2万5千円だと仮定したら、一人前の大工なら、みんな2万5千円という


「同一労働、同一賃金」


の世界なわけです。



 そうするとその裏には、いろんなことが起きてきます。


 ■ 建築の仕事をする元締めやら、棟梁、あるいは元請に相当する人物は、家を建てる人からは、「今日は5人現場に来たから5×2.5=12万5千円請求します」とお金をもらうけれども、半人前の弟子にはそれだけやらずに利ざやを抜く


とか


■  みんなが一人前であれば、「ただ土を運びまくる」とか「ただ石を運びまくる」といったいわゆる下働きの仕事が嫌になるので、下働きをしてもらう人材と、高度な技術を使う人材を分ける


とか 、そういうことが陰で起きているわけですね。




 ほら、ちょうど今話題の女医になるための入試点数を調整しないと、医療が崩壊する!みたいなことが、現場サイドで起きるので、悪い意味での工夫をしているのです。






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 こうした問題を今度は、一般的なサラリーマンで置き換えてみるとどうでしょう。



 今、わたしたちは普通に


「新卒者や新入社員には、仕事を先輩が丁寧に教えて、そうして仕事を覚えていってもらうべきだ」


と考えていると思います。まあ、それが「正しいことで当たり前だ」と思っていることでしょう。



 ところが、このことが「当たり前で正しい」と思うことができるには、ある重要な前提条件が必要になることがおわかりでしょうか?



 それは、



「先輩は、順番にその上の地位に昇進し、その先輩後輩の立場は変化しない」



という暗黙の了解や大前提です。



 もし、この前提が崩れてしまい、



「すべてのメンバーは実力主義でバトルロワイヤルだ!社内で生き残れ!」


みたいなことになるとどうでしょう。


 あるいは、


「右肩上がりで業績が拡大せず、ずっと平衡状態とか、右肩下がりで社員同士で仕事やポジションの取り合いが起きる」


とすればどうなるでしょうか。



 ”先輩社員と後輩社員が全く同じ職能を持っているのであれば、会社としては、給料が低い後輩社員を残し、先輩社員を排除しようとする”


 ことは目に見えていますし、そうなると自動的に、


”先輩社員はわざと、後輩社員に仕事の内容を伝授しない”


ということが起きてくるのです。



 おのずと、先輩社員は



「仕事というものは目で盗んで覚えろ」


とか


「仕事は自分でつかみ取れ」


とか、そういうことを言い始めることは想像に難くありません。




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 さて、ここからが資本主義ハックの真骨頂です。



「持てる技術技能や、智恵知識は、資本・資産である」



と考えると、会社があなたを守ってくれない時代にはそれらは



「安易に手放すものではない」



ということになります。


 もちろん、そうなると社会全体の経済成長は鈍化しますが、社会全体の経済成長があなたの家計を守ってくれるのか、あるいは会社があなたを守ってくれるかどうかでこの話の結論は



大きく真逆に変化する



ことも覚えておいて損はありません。




 会社組織にあっては、労働者が技能や知識をどんどん集約・伝達してくれたほうが、会社全体の生産性はアップするので、資本家から見ればメリットがある、ということになります。


だから会社では「新入りにモノを教えるのは当然」という風潮を仕込みます。



 ところが、職人はその個人自身が「小さな個人資本家」なので、技能や知識を独占していたほうが利益が出るのです。


 だから、職人の世界では「新入りは自分で学べ」という風潮が当然なのです。




 資本主義をうまくハッキングするには、自分が会社や仕事において「どういう立場、ポジションにいるのか」をきちんと考えた上で、上の2つの立場を上手に使い分けることで



 あなた自身の生き残り策



を組み立ててゆく必要がありそうです。





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