2015年6月23日火曜日

【営業刑事】  「営業刑事はやりきれない」 ~あなたの正義感を試す究極の問題~



 突然ですが、あなたは「正しいこと」を「正しい」と言える人ですか??


 ・・・いきなり大層な質問から入った今回のお話ですが、今日はみなさんの



 正義感



というものを試すひとつの問題を投げかけてみようと思います。



 このブログを読んでいる人たちの大半は、おそらく「正しいことと間違っていることくらい、簡単に分別できる」とか「いいことと悪いことの区別くらい、ちゃんとつく」と思っておられると思いますが、本当にあなたが基本的に善悪の区別がつくのかどうか、



お試しさせていただきたい!



と思ってこの記事を書いています。



 さあ、あなたの「正しい」と思う感覚は、本当に正しいのでしょうか?それとも、あなたの感覚はどこか間違っていたり、ズレていたりするのでしょうか?


 では、以下のお話を少しだけ読んでみてください。





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 あなたは、とある会社に勤めている営業マンです。先日までは、東海地区担当で商品を販売していましたが、今回近畿地区担当になり、以前の担当者と入れ替わりで顧客を相手にすることになりました。



 そこで、前任者から、困った話を引継ぎで聞かされました。



「いやあ、この顧客リストにある個人客のA商店なんだけどさあ、困ってるんだよね」



と前任者は、頭を抱えています。どういうことか尋ねると、



「商品を納品しても、お金払ってくれないので、裁判みたいになったんだけど、それでもまだ未払い金がたくさん残っているのさ。で、全額払ってくれていないので、催促をずっとしていたんだけれど、2年ほど前に弁護士から文書が来てね。”破産手続きをしますから、もう催促とか取立てとかしないで、連絡は全部弁護士にしてください、って言うんだよ」



 なるほど、そういうこともあるでしょう。それで、仮に破産をしてしまったのなら、当社としてはお金は戻ってこないんだろうけれど、それはそれで損金として処理する以外にないわけで、まあ仕方ないことなのかな、とあなたは思うことでしょう。



 それは全くその通りで、誰でも同じように考えることと思います。ところが、前任者は続けます。



「ところが、おかしなことにその弁護士は、破産手続きを全然進めていないのさ。普通は、弁護士が破産手続きに入ると、依頼者の借金とか、残金とかをぜんぶ計算して裁判所に持っていって手続きするので、すぐに裁判所から『誰それさんの破産手続きは終わりました』という連絡がくるんだけれど、いくら待っても裁判所からは連絡がないのさ」



 それはたしかに変な感じがしますね。弁護士はどう言っているのでしょうか。



「弁護士に尋ねたら、必要な書類がAさんから出てこないとか、Aさんに連絡をなかなか取れないとか、のらりくらりとずっとかわされてる感じなのさ。それで困ってるんだ。損金処理もできないし、お金を支払ってもらうこともできないわけで、そんな感じのまま君に引き継ぐのは申し訳ないんだけれど、事実はそういう状態なんだよ」



 と、前任者は、申し訳なさそうに頭を下げます。あなたは、とりあえず事情を知っただけで、しかし、それ以上何かできそうなわけではありません。


 自分はどうしたらいいんだろう、と思ってあなたも困り顔になってゆくのでした。



 さて、そんな顧客の引継ぎを受けてしまったので、あなたはたまたま学生時代の同級生で、弁護士になっている友人に相談してみました。



 すると、その弁護士は、あなたが思いもよらなかったものすごいことを言い始めたのです。



「まず、一般の人にもわかりやすいように基本的な事柄を説明しておくよ。借金に追われるなどして、困った人が弁護士に相談に行って正式に依頼をすると、弁護士は『受任通知』というものを作って債権者、つまりお金の貸し主に郵便で送るんだけどね。基本的には、この受任通知が届けば、貸し金業者は、電話をかけたり、会いに行ったりするなどの取り立て行為ができなくなるんだ。だから、そのA商店が弁護士に依頼をした時点で、お金の貸主は手出しができなくなる、というのはとりあえず合ってる。その通りだってことだね」



 じゃあ、やっぱりどうしようもないのか。とあなたは弁護士の友人に尋ねます。ところが、彼はあなたをちょっとだけ遮って、続けました。



「ちょっと、まって。まあ、聞いてくれ。どうしようもないか、そうでないかの前に、その弁護士が考えていることを説明しておこう。これは彼の作戦なんだ。受任通知を送れば、とりあえずの集金や取立ては止まる。だから、お前の会社だって集金に行ってない。とまあ、ここまではよしとしよう。それとは別に、借金や未払いの売掛金などには『時効』というものがあってね。刑事事件の時効とおなじさ。逃げ回っていれば無罪になるというあれだよ」



 そこで、あなたは聞きなれない未払い金の「時効」という言葉に、興味を持ちました。なんだか嫌な予感がするからです。



「そう!そんな顔になるのも当然だ。おまえが思っているとおり、未払い金は2年、借金は5年というように時効があって、その間無視しつづければA商店は返済の義務がなくなるんだよ」



 なんてこった!とあなたは思います。たしか、前任者は、2年前に弁護士から受任通知が来たと行っていたので、もしかすると時効とやらにひっかかるのかもしれない、とあなたは焦る気持ちになってきました。




「と、まあここまでは教科書通りのおはなしさ。ここからは個別の話をするから、まだ慌てなくていい。その時効だが、たとえば時効を迎えても借金をした本人が払うつもりだったら、時効にしなくてもいいんだ。だから、時効後でも、いくらかでも支払いを受ければ時効はなかったことになる。また、おまえの会社のように、途中で裁判をかましていれば、その時点で時効は中断するので、厳密にいえば10年間は期間が延びると考えていい」



 それを聞いて、すこしあなたはほっとします。前任者の時に、裁判をしているおかげでA商店の残金は、しばらく時効にはならないようだからです。



「それはその弁護士の作戦だ、とさっき言ったろ?そいつの作戦はこうだ。おまえの会社の残金はほっておくにして、とりあえず他に貸し金業者からも借金があったりしてA商店は首がまわらなかったんだろ。そこで受任通知だけ出して、ほったらかしにしておくのさ。すると、5年で時効を迎える債権が出てくるって寸法さ」



 そこで、あなたはちょっと怪訝な顔をします。それって、何か、どこかおかしな話じゃないか?と思うのです。あなたは、つい語気を荒げて友人に食ってかかります。



「ってことは何か?弁護士ってのは、受任通知を出して業者に手出しできないようにさせておいて、そのまま時効まで塩漬けにして時効が来たら、はい残念でした!って言うのが仕事なのか?!」


 友人は、にやりと笑いました。



「・・・・・・そういう作戦を取る弁護士がいる、ってことさ。全員が全員そうじゃない。変な話だが、そうするつもりがなくても、結果的にそうなってしまうことだってある。たとえば、依頼者が手付金だけ払って、手続きにかかる弁護士費用を完納しない場合、我々はその時点で仕事をストップせざるを得ない。費用を支払ってもらってはじめて、裁判所に手続きにいけるわけだから、弁護士が故意にやらなくても、受任通知を受けたあと何年も時間が経つことだってありうるのさ」


 そして、小声でいいます。



「結果的にそうなったのか、そういうことにして故意にやってるのかは、誰にも判断できないしな」



と。



 しかし、納得のいかないあなたは、まだ怒りがおさまりません。



「でもそれって法的にはどうなんだ!ルール違反って言うか、何か法的に問題があるんじゃないか?どう考えてもおかしいぜそれ。我々に手出しできない状態にしておいて、時効だなんて無茶苦茶じゃないか!」




 そこで、まあまあまあ、と友人はあなたをなだめます。



「さあ、本題はここからさ。実はこの作戦にはいろんなポイントがある。抜け道というか、法の盲点というか、そんな感じに見えるかもしれない。弁護士側から言えばね、お金に困った借金漬けの依頼者を助けるのは正義なんだよ。どんな手をつかっても、依頼者を守るというやつさ。弁護士の理屈はこうだ。まず、受任通知だが、受任通知は『依頼を受けました』ということを知らせるもので、貸し金業者にはその後の接触を禁じるものだが、おまえのように普通の会社の売り掛け債権の場合は、ガンガン取り立てしたってそれを禁じる法律はない。紳士協定みたいなもんだな。それに、相手が貸し金業者の場合でも、受任通知を受けてから後に訴訟を起こすのは全然問題ないので、つまりは『時効になるまでの間に裁判する時間があったのに、そっちだってほったらかしにするのが悪い』という理屈で戦うわけさ。だからこれは、作戦なんだよ。勝つか負けるかはわからんが、戦法のひとつというわけだ」



 一息ついて、友人は続けます。


「もしおまえが、住宅ローンやら嫁はんの借金やなんやで、弁護士に相談に行くとする。今の話を聞いて、おまえならその手を使おうと思うか、思わないか、どっちにする?本当に破産しちまうか、破産せずに逃げ切るかどちらが、おまえの正義か、考えてみるのも、悪くないぜ



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 さあ、いかがだったでしょうか?あなたの正義感は、ゆらぎましたか?それとも、確固たるものであったでしょうか?


 
 営業刑事にとって、覚えておかなくてはいけない座右の銘というものがあります。


 あなたが営業刑事を目指すなら(いや、誰も目指さないって^^;;;)、この言葉だけは覚えておきましょう。





 法律は弱きものの味方ではない。ただ、法律を知っているものだけの味方なのである。


 法は権利の上に眠る者を守らない。




 そう、何も知らないあなたを法はけして守ってはくれないのです。



















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