久しぶり、というわけでもないですが、本来は当ブログのメインである不動産ネタを。
『1億円の借金で賃貸アパートを建てた老夫婦の苦悩』という記事が出ていたので、興味深く拝読しました。
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150512-00010000-scafe-bus_all
(シェアーズカフェ・オンラインさんより)
不動産投資関係やら、建築関係に務めている方なら誰でも知っているネタではありますが、NHKで取り上げられていた、というのがなかなかいい感じです(^^
話はカンタン!
「節税(とくに相続税)目的で、老夫婦が田んぼに借金して賃貸アパートを建て、その企業が家賃保証とやらをしてくれるんだけど、あんなことやこんなことになってしまう」
というお決まりのパターンです(笑) ・・・いや、笑ってはいけませんね。失敬失敬。
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いちおう、話をよく知らない方のために、カンタンな補足をしておきましょう。
まず、使わなくなった田んぼや空き地を持っていると、おじいちゃん・おばあちゃんが死んで息子たちに相続するときに、もともと面積が広かったりするもんですから金がさが高くなってしまい、相続税が発生します。
ところが、そのまま資産としてもっている田んぼや空き地には税金がかかりますが、借金があると相殺されますので総資産額を減らすことができます。ここまではOK?
なので、こんな話はどうですか?と業者さんがやってくるわけです。
「その空き地に、借金をしてアパートを建てましょう。空き地の資産の分に対して、借金がありますので、相続税が生まれません。そしてなんと、そのアパートから賃料がもらえるので、資産がどんどん増えることになるのです」
これを聞いて、おじいちゃんたちは、「それは良い話だな」と耳を傾けてしまいます。業者さんはさらに続けます。
「もちろん、アパート経営ですから空き家が出てしまうなどのリスクもあります。しかし、心配ご無用!常に満室状態とおなじように当社が一括借り上げしますので、空き室リスクは当社が背負います」
これを聞いてさらにおじいちゃんたちは喜びます。「それは素晴らしい。すぐ契約するべ!」と。
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この素晴らしい成功パターンで、うまくいくケースももちろんあります。うまくいくケースは、ほとんど条件が決まっていて、
「大都会に畑を持っていて、駅近ハイソな賃貸住宅のニーズがある場所のおじいちゃん」
は成功することが多いです。なんせ相続税が高いので、賃貸化借金は大変に助かる!
それ以外の「ちょい田舎のおじいちゃん」とか「クソ田舎のおじいちゃん」とか、勝利の方程式から外れたおじいちゃんたちは、後に大失敗が待っている場合があるので要注意です。
どういうことか。
仮に6戸セットの賃貸アパートを都会と田舎に建てるとしましょう。土地は抜きにして、上ものはまったく同じです。ということは、借金の金額は全く同じということになります。
これをどういう計算で返済してゆくかですが、都会だと6戸が常に借りてもらっている状態を長く維持できますから、総金額を順調に返済することができます。
ところが、田舎だと常に6戸が埋まっている状態を維持できません。なので、時には4戸しか埋まらないとか、半分しか入ってくれていない、という状態が生じるのです。
これがあると返済計画に狂いが生じます。
なので、おじいちゃんたちから見ると、これが一番怖いので、「一括借り上げ・家賃保証」という契約がついていると、飛びついてしまうわけです。
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ここで、よく考えてみてください。賃貸アパート経営には空き室リスクが伴います。田舎のおじいちゃんは、そのリスクを常に恐れて賃貸経営をしなくてはならないのですが、そこで登場した「一括借り上げ」の場合、空き室リスクはどこで処理されているのでしょうか?
リスクがある以上、何らかの手当てをしておかないと、業者さんも損しますよね?それなのに、どうして一括借り上げができるのでしょう。
その秘密はたった一つです。
「一括借り上げ、家賃保証という契約は、当初の家賃を全額ずっと払ってくれるわけではない」
ということです。
最初の契約から一定期間は、たしかに満額の家賃が保証されますが、途中で見直しが入ります。その見直し率は、その建物が建っている場所の実需に合わせて変動します。
業者さんは、途中でこう言ってくるのです。
「あのー、現在の家賃では、近隣の相場より高くて入居者さんがいなくなってしまいます。実際、あっちのアパートやこっちのアパートは、おたくよりも1万円家賃が低いので、それに合わせて満室にする方向で」
と。
ここから、1万円低い金額での一括借り上げが始まるわけです。
すると、当初の借金の返済計画と狂いが生まれてきます。つまり、いくら一括借り上げが約束されていても、金額が異なるため、収益が当初より低くなるのです。
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こうして、おじいちゃんとその息子の代まで、返済不可能な借金漬け人生が始まることになります。
返済がショートすれば、しかるべき法的処置がなされ、彼らは資産を失う、という壮大な物語なのです。
小さな家を一軒建てようと思えば、うわものだけで1000万円は軽くするでしょう。ということは6戸のアパートでは5千万~6千万くらいして当然ですね。
記事の事例では1億のアパートとありましたが、1階5軒・2階5軒くらいの文化アパートでも、それくらいかかるということです。
おじいちゃんがいくら田んぼや空き地をもっているとはいえ
1億円という巨大な勝負をするのに、バクチの素養も知識もない
とは、完全にバカとしか言いようがありません。
奇しくも、あのシャープが資本金を1億円にしようとしているなんてニュースがありましたが、おじいちゃんにシャープとおなじくらいの経営バトルを繰り広げる自覚があるとは、とうてい思えません。
1億円のアパートを建てるということは、1億円を資本金にして賃貸業をはじめるということなのですから。
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さて、ここにきて吉家孝太郎が、家を2軒持ち、かつ数々の金融裁判に関わり、また本物の営業刑事として活躍してきた実績をもとにお話をしたいことがあります。
それは、みなさんがこれまでの人生でどれだけお買い物をして、いろんなものにお金をつかって消費者として暮らしてきたことはヨクヨク理解し、共感するとしても、
不動産というものに関してだけは、けしてみなさんは「消費者」なんてものにはなりえないし、なってはいけない
ということです。
もっと平たく言えば、
「すべての商品を買うとき、私たちは『お客さん』でいられる。しかし、不動産を買うときだけは、誰も『お客さん』ではいられない」
ということです。
お客さんでいられるとか、いられないとはどういうことでしょう。
例えば、普通の商品であれば、商品に問題があれば「交換してもらう」とか、生産した会社を悪者にすることができます。
しかし、不動産に関してだけは、意図的に騙されてその物件を掴まされたり、そういうこと以外では、全く持って「交換してくれたり、誰かを悪者になどできない」のです。
仮に、あなたが土地を買い、その土地が翌日の地震で陥没して池になったとしましょう。あなたは誰にも文句を言うことができません。あるいは近隣の住民から、
「子供が落ちたらいけないので柵をしてもらえませんか」とか、
「蚊がわくから、薬剤をまいてくれ」とか、
言われまくっても、それはすべてあなたの責任なのです。
そんなことは誰にも予見できず、誰にも責任が追えないことは、土地の所有者の責任だということです。
なので、不動産に関してだけは、その土地の範囲内の「主権を買う」ということと同等だと思っていてください。
まさに小さなエリアの国主・城主・領主としての全責任を負うのです。
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逆に、いいこともあるので、それもちらっと書いておきましょう。
主権を持つということは、不動産に関してだけは、「自分で値段をつけてよい」ということでもあります。
1000万円で売りに出ている物件をみつけて
「俺はこの家に300万円しか出さない!」
と主導権を発動することは全然かまいません。そんなことができるのは、不動産取引だけです。
はいっ!と手を挙げて、
「ワシはこの値段でしか買わんもんね!」
と言っていいのです。なんといっても主権発動です。あなたの意思は尊重されます。
ここから先は主権と主権の戦いですから、相手が
「よし、300万円で売った!」
といえば、それで完全に取引成立なのです。
(こういう買い方を「指値をする」といいます。不動産投資の世界では当たり前のやり方です。ちょっとオークションに似ていますね)
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私が実際に指値をして、面白い結果になったこんな事例があります。
不動産会社の販売提示価格が780万円で、私の指値が580万円で、さて、結果はどうなったと思いますか?
・・・・売主の主権780万。ワシの主権580万。
・・・・そこに思わぬ陰の主権者登場!
・・・・売主が借りていた銀行の主権発動!
<結果>銀行が、980万じゃないと売買を許可しない、と言ったので話は流れた。
売主が780万でいい、と言ってもだめなんです。ワシが580万円と言っても、それはそれとして、本来の権力を持っている銀行が
980万回収しないとゆるさへんのじゃーーーー!!!
と言い出したら、それが主権なのでした(笑)
(ちなみに後日談。この物件を980万で他の人が買って行きましたが、本来不動産屋さんが780万しか価値がないと判断した物件なのに。980万も出してしまったその人は、かわいそうですね。こんな風に、不動産の価値って無茶苦茶なんです。だから主権を持ってこっちも臨まなくてはいけないのです)
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