2016年11月5日土曜日

もし、国語の教書に「PPAP」が載っていたら ~PPAPはなぜ面白いのか~

 世界的に大ヒットとなっているピコ太郎氏の「PPAP」ですが、世の評価としては


「どこが面白いのかよくわからない」


という感想も多いようです(^^;



 そもそも、お笑いとか、この手の「ナンセンスギャグ」に「どこが面白いのか」の講釈をつけるのは、それこそナンセンスで無意味だったり、笑いとはそういうものではないということになるのでしょうが、国語の教材としては、この「PPAP」はとても



面白い(興味深い、よくできている)



と思います。 というわけで、”もし中学校や高校の国語の授業でPPAPを取り上げたら?”というスタンスで、その面白さ(学術的な、教育的な意味での)を実践してみようと思います。


では、元高校国語教師による、「PPAP」の授業をお楽しみアレ。

※今回、教育的観点から「PPAP」の歌詞について全文引用しております。古坂大魔王氏の著作物ですので、引用お許しくださいませ。




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♪キーンコーンカーンコーン


「はい、では今日の授業は、新しい単元です。現代文、詩歌「PPAP ピコ太郎」のページを開いてください」

(一同、教科書を開く)

「じゃあ、最初に、まずは一度朗読してもらおうかな。山田君。朗読お願いします。ちょっと注意事項ですが、なるべく英語っぽい、外国人っぽい発音を意識して読んでください」

山田「はい。読みます。

PPAP

I have a pen.

I have an apple.

ah

apple-pen.


I have a pen.

I have  a pineapple.

ah

Pineapple-pen.


Apple-pen

Pineapple-pen

ah

Pen-pineapple-apple-pen (読了) 」


(一同クスクス笑い)


「はい、ありがとう。文章の意味を考える前に、まずは、この詩に用いられている技法を、見つけて発表してください。わかったら手を挙げて・・・はい!吉田さん」


吉田「繰り返しがあります。アイハブなんとか、がたくさん出てくるところとか」


「いいですね。OKです。まずは『繰り返し』を使ってますね。これ、別の言い方があったのを覚えていますか?以前にも詩歌の単元ではよく出てきましたが・・・はい!山本君」


山本「リフレイン!


「そうですね。リフレインです。リフレインや繰り返しを使うと、内容を強調したり、意味を強めたりできますが、今回のPPAPの場合はアイハブなんとかにあまり意味はなさそうです。では、どんな効果が得られるでしょう・・・前川さん」


前川「んーっと。あまり意味はないけど、リズムにはなっている気がします」


「いいでしょう。リフレインによって、ことばのリズムを生み出している。これも一つの効果ですね。はい、ではもう一つ! この詩で特徴的な、リズムや語調を整えている別の技法がありますが、それはなんですか?」


鈴木「を踏んでいると思います!」


「はい、鈴木君、いいですね。ことばの最後に同じ音や似た音を配置して韻を踏む、というのを漢文でもやりました。漢文の時には、これをなんと言うんだっけ?鈴木君」

鈴木「押韻(おういん)」


「よく覚えてますね。正解です。 ちなみに、このPPAPでは、どんな韻が登場しますか?はい・・・上山さん」


上山「・・・エン♪とかアン♪のところですか?」


「とっても発音がいいですね(笑)文末ではエンが、といってもペンしか出てこないので当然っちゃ当然なんですが、韻になってます。上山さんの言うとおり、アンのところもいいリズムになってますね」


「さて、今度は内容に入ります。この文章、言ってることはペンやらリンゴやらをくっつけているだけですが、全体としてはあまり意味はありません。じゃあ、こうした表現をすることはどんな意味があるのでしょう。太田君どう思いますか?」


太田「うーん。あんまり意味がない、ってところが面白かったり、逆にそこがいいんだと思いますが・・・」


「そういうジャンルが、なかったっけ?」


太田「あ!ナンセンスとかナンセンス文学!」


「はい、OK。ありましたね。ナンセンス、つまり意味をなさないところにユーモアを成立させるという技法やらジャンルがある、と現代評論のところで習ったと思います。ナンセンスは言葉遊びだけの場合もあるし、何かを風刺するときなどにも使われますね。ちなみに、この詩では、どこが一番ナンセンスですか?」


泉「そりゃ、ペンパイナーッポーアッポーペンでしょ!(一同爆笑)」


「お、学年一のお笑い王子、泉君さすがだね」


泉「アポーペンの時に既にあやしくなってるけど!」


「ですね。でもまあ、リンゴの形をしたペンがあるとしたらそれはアポーペンなので、そこまではまだ許せます。パイナッポーペンも同様です。でも、最後のやつは、どう頑張っても意味不明ですね!
ではもうちょっと突っ込んで尋ねてみましょう。ペンパイナッポーアッポーペンは、究極のところ、何が面白い?」

(全員少し考える)


泉「やっぱり、リズム・響きちゃいますかね?ペンパイナッポーアッポーペンという響きだけで笑えるっていうか」


「いい指摘ですね。もともと、Pの音には人を和ませる力みたいなのがあります。たとえば、”おならプー!”というだけで小学生は爆笑します」


(何人か声を上げて笑う)


「ほら、うちにもまだ小学生レベルのヤツがいるでしょ?(笑)”ぴゅー”とか”ぺろぺろ”とか、なんか聞くだけでちょっと可笑しいみたいな力が隠れてるんです。音声とか音の響きと感情の関係でいえば、『怪獣の名前はなぜガギグゲゴなのか』という黒川伊保子さんという人の本があるので、より深く知りたい人は、ぜひ読んでみてください」



「さて、ここからまた真面目な話に戻りますが、実はみなさんがこれまでにならった詩歌で、構造的には今回のPPAPとまったく同じ構造を持っている詩があるんです。知ってますか?」

(シーン)


「学校で習う、詩歌の単元で、一番強烈なやつといえば?(ニヤリ)」


(何人かが失笑する)


「はい、吉田さん。今笑ったのなんで?」


吉田「合ってるかわからないんですが。詩の授業の時は”オノマトペ”という言葉を聞くと絶対笑っちゃうみたいな・・・」


「出た!オノマトペ!」


(一同爆笑)


「オノマトペって何だっけ?だいたいみんな”オノマトペ”という言葉は覚えるんだけど、それが何なのかは忘れてしまうという謎の言葉ですね。・・・はい!鈴木君」


鈴木「擬音語?擬態語?なんかそんなのだったような気がします」


「OK、OK。擬声語という言葉もありますが、リアルな音とか様子を文字にしたものですね。ペタペタとか、ブーブーとか。はい、じゃあ、吉田さんがオノマトペを出してきたのはいい線いってるんですが、思い出しましょう。詩歌の単元で最強のやつ。上山さんどうぞ」


上山「中原中也でしたっけ。ゆあーんゆよーんのヤツ」



「はい(拍手)大正解。中原中也「サーカス」という詩を前にやりました。構造的には、PPAPとかなり近い、というかおんなじだということを今から証明しますね」


(板書する)


”幾時代かがありまして
茶色い戦争がありました

幾時代かがありまして
冬は疾風吹きました

幾時代かがありまして
今夜此処でのひと盛り
今夜此処でのひと盛り

サーカス小屋は高い梁
そこに一つのブランコだ
見えるともないブランコだ

頭倒さに手を垂れて
汚れ木綿の屋根のもと
ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん”



「まだ続きますが、ここまでにします。繰り返しもある、韻も踏んでる、そして肝心のところ

”ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん”



”アポーペン パイナッポーペン ペンパイナッポーアッポーペン”

とまったく同じ構造ですね。ゆあーん ゆよーん、まではまだ分かりやすいけど、最後は”ゆやゆよん”ですから強烈です。PPAPも最後に強烈なのをもってくるんです。だいたい中原中也の詩も、誰も戦争とかサーカスの話だとは覚えていませんよね?覚えているのは、ゆあーんゆよーんだけ、という(笑)」


「さて、では、この詩のタイトルPPAPはなぜ”PPAP"なのか、考えてみましょう」


(ちょっとざわつく)


泉「ペンパイナッポーアッポーペンの略だからPPAPなのじゃないですか?」


「そりゃ、誰でもわかるがな」


(爆笑)


「でも、泉はいいところに眼が言ってます。じゃあ、なぜタイトルがペンパイナッポーアッポーペンではダメなんでしょう」


泉「・・・あ!そうか!出オチになるんや!」


「はい。それです!・・・この詩の一番面白いところは最後の一文なので、そこは見せてはいけない、ってことが大事なんですね。そしてPPAPという伏字にしてることで、そこには何か意味があるはず」


泉「何かわからんから、なんやろ?って思いますね」


「いいねえ、さすがは泉君です。PPAPって何?と思いながら客っていうか読み手はその先へ行くわけです。すると、おもむろにペンやらアポーペンが出てきて、まだ何かよくわからず、また先へ行く・・・」


太田「クライマックスへ山を登っていく感じですか?」


「それもいい見立てですね。文章の構成で、一番山になるところ、なんていい方をしますがそれがクライマックスです。PPAPの場合は最後の一文へ行くまで期待値を最大限上げながら一気に落とす、みたいな笑いがありますね。じゃあ、そろそろ授業も終わりに近づきましたが、ここで問題。みなさんがもしタイトルをつけるとしたら、なんてつける?PPAPは使えないとして」


(考え込む)


「アップルでもペンでもないし、それぞれ一つの事象に囚われてもいけないし、ネタをばらしてもいけないし・・・」


山田「ポーペン、とかどうですか」


「うん、それ!私は意外と嫌いじゃない!タイトル”ポーペン”と聞いてどう思う?鈴木君」


鈴木「意味がわからん(笑)」


「わからない、っていうのはちょっと利点ですね。なんせオチを言ってはまずいのだから、ポーペンだったら「え?ポーペンって何?」からはじまって、ちょっとずつ答えがわかってゆく感じがあります。オチもばらしてないので使えそうですね」


泉「えー?、でもポーペンの場合は笑いが分散するっていうか、アポーペンのところでちょっとだけネタバレになっちゃうじゃないすか。やっぱり最後の最後まで引っ張りたいという意味ではPPAPの方が勝ちかなあと思います」


「するどい意見が出ました!まあ、このあたりは感性の問題になるので、ピコ太郎さんの場合は、最後の瞬間までネタを明かさない、という姿勢だったことが判明したということで、このあたりにしておきましょう。それでは、宿題です。リフレインと韻を使った詩をひとつ、次回までに書いてきて提出してください。ピコ太郎氏はこれで数千万円稼ぎましたので、みなさんも世界にヒットするようなネタをぜひ書いてみてくださいね。では本日はこれにておしまい」



キーンコーン♪



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とまあ、授業としてはちゃんと成立すると思います。英語科の先生には英語詩を作る、みたいな単元と絡めてもできるのではないかと。


 上記で解説したとおり、このPPAPは非常に教育的にも面白いです。誰か実際に授業でやってみてください(笑)


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